蚊帳の中
子供達は釣りをしていた
川沿いの団地のベランダから
糸で括ったラムネの瓶を垂らして
無邪気に笑いながら
何かが食いつくのを待っていた
土手に佇んだ僕の後ろで
こぼれ落ちたビー玉がぶつかり合って
泡の弾ける音を響かせていた
子供達は泳いでいた
海よりも澄んだ空の中を
太陽に小さな手のひらをかざして
無邪気に笑いながら
気持ち良さそうに漂っていた
浜辺に腰掛けた僕の前で
クラゲが気球のように舞い上がって
入道雲に溶けていった
子供達は歌っていた
裏山に作った秘密基地から
赤く染まっていく街を見下ろして
無邪気に笑いながら
声が枯れるまで叫んでいた
杉の木にもたれた僕の上で
無数のヒグラシが鳴き交わして
枝葉を優しく揺らしていた
火照った夜更けに
蚊帳の中で一人きり
めくるめく光景はどれもまるで
陽炎の奥を覗き込んだように
酷くぼやけて映った
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