卵の殻が割れるときを
静まり返った空き家の列が
夕陽に赤く焼かれた窓を
外灯のように点らせる
寂しい 薄暗い街です
持ち主からはぐれた靴が
湿った空気を掻き分けながら
当てもなく路地を進みます
星の消えた空を彩るように
繭籠りした記憶が吊るされ
か弱い光を瞬かせる
寂しい 薄暗い夜です
展望台に取り残された
双眼鏡が俯きながら
名もない星座を結びます
卵の殻に包み込まれた
意識と鼓動が溶け合う前の
漂い渦巻くこの場所で
いつまでも眠り続けます
いつまでも待ち続けます
卵の殻が割れるときを
誰かの濡れた瞳が映す
滲んだ夢に目覚めるときを
遥か彼方から流れ来る
消え入りそうな産声に
孤独の淵が揺らぎます
微かな予感を探ろうと
ささくれ立った未熟な指が
瞼を何度も擦ります
TOP