旅人の瞳
足場のない道を行き
遠く旅をする者の瞳は
静かな 冷たい艶を持ち
不在の家の窓辺に掛かる
薄絹のカーテンのようだ
旅をしない者は彼を前にすると
待ちぼうけを食らったような気になり
怒りと嘲りを込めた石を投げつけ
その後には死者に対する同情と
同じような感情を彼に寄せる
しかし旅支度をしている
あるいは既に歩き始めている者は
同志の瞳の奥の躍動を感じ取る
ほの暗い渓谷の底から流れ来る
彼が起こした焚き火の灯りと
使い古した手帳を捲る音
ああ 彼はいる
彼も歩みを続けている
その確信が安堵と希望になり
自らもまた旅路を行く
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