霧と苛立ち
こら……おとなしく……聞きなさい……
うるさい……邪魔……目障り……
濃霧の底で揺れる川面に
苛立ちを込めた石を投げつけると
瞬く間に石は見えなくなって
水を切る音だけがいつまでも続いて
誰かがわざとらしく湿らせた声で
僕の水切りを褒めてきたけれど
見世物にはなりたくなかったから
膝を抱えてうずくまった
どうして……普通に……やめなさい……
気持ち悪い……おかしい……来るな……
やがてどこか遠く辿りけないような所で
船の汽笛がけたたましく鳴り響いて
行く予定のない旅路の躓きに
再び苛立ちが込み上げてきたけれど
濃霧注意報が……発表されました……
濃霧注意報が……発表されました……
間が抜けた町内放送に諭されて
視界は一層白けていった
悪い子……悪い子……悪い子……
馬鹿……馬鹿……馬鹿……
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