あの子と喧嘩をしてしまった日は
あの子と喧嘩をしてしまった日の帰り道は
足の裏がコンクリートの硬さに疼いて
電柱や掲示板に貼られた捜索願いのチラシが
やたらと目につく夕暮れだった
母さんが何も言わずに出してくれたご飯を
僕は何も言わずに食べたから
あの子にもあの子のお母さんと話さずに
静かにご飯を食べてほしかった
あの子と喧嘩をしてしまった日の夜は
湿ったしわだらけの布団を敷いて
目覚まし時計を押し入れの奥にしまい込んで
おままごとをする夢を見た
父さんがそっと掛け直してくれた毛布を
僕は乱暴に振り払ったから
あの子にもあの子のお父さんに頼らずに
一人で夢を見てほしかった
あの子と喧嘩をしてしまった日は
あの子とだけしか話したくなかった
あの子と喧嘩をしてしまった日は
あの子のことだけしか考えたくなかった
僕は一人で静かにあの子を許したから
あの子にも一人で静かに僕を許してほしかった
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