池の脇で
霧のたちこめる森をさまよい
どれほど経ってからか忘れたが
気付けば僕はある池の脇で
佇んだまま時を重ねている
この池の水面はとても素直で
曇天も快晴も稲光も
空を見上げずとも知ることができる
一匹の魚を匿うように泳がせ
ぽつりぽつりと落ちる雨粒を
一滴残らず栄養として与えている
確信に近い憶測だが
もしこの魚を捌き食べることができれば
僕の胃袋がのたうち回らず消化できれば
たちまち足に活力が湧き
森を抜け町に戻ることができるだろう
けれどもそれをすべきなのだろうか
静かに漂う姿に哀愁を感じてしまう
ときおり跳ねる姿に健気さを感じてしまう
これほどまでに時間を忘れさせてくれる
魅力的な観賞魚は他に知らない
霧の毒気にやられたのか
頭の回りがどうにもぎこちなく
延々と問いの輪郭だけをなぞり続ける
そうしているうちにまた雨が
今度は打ちつけるように降り始める
池は騒がしく声をあげて
魚は一段と鱗の艶を増して
僕はぼんやりその様を見つめている
もうずぶ濡れになっても震えることはなく
佇んだまま時を重ねている
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