四月の逃避
新入社員歓迎会の帰り道
名刺のかわりにばら撒いた稚拙なおべっかが
二次会を断った僕を頭の中で責め立てた
マンホールや電柱の裏側から
誰かの泣きじゃくる声が聞こえた
段ボールの匂いが漂う部屋には帰りたくなかった
積み込んだ覚えのない思い出で
夢の中を散らかしてしまうような
そして目を覚ました時には自分の体が
歪な歯車になってしまっているような予感がした
ふと顔を上げると繁華街の光の奥に
そびえ立つ摩天楼が見えた
初めてランドセルを背負ったあの日
期待と共に感じた微かな不安が
いつの間にか大きくなって僕を呼んでいた
ああ 逃げよう 今すぐに逃げるんだ
僕は首輪のようなネクタイをほどいて
行き先を確認せずにバスに飛び乗った
これから自分はどこに行って何になるのか
そんな事を考える余裕は微塵もなかった
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