笑顔、嘘、初恋。

あの子はよく笑っていた。
放課後に公園でクラスメイト達が遊ぶ様子を、
澄んだ眼差しで見つめながら。
いつもベンチに座っているだけだったけれど、
誰よりもシャツやスカートはぼろぼろだった。

「仲間外れをせずに仲良くしましょう。」
先生がそんなことを話し出すと、
みんながあの子をよそよそしく見るから、
僕は教室から逃げ出したくて仕方がなかった。
そんな時でもあの子は笑っていた。

僕はあの子が好きだった。
歯抜けの口元を隠さずに笑いながら、
童話のような優しい言葉を話していたあの子。
嘘をつけないことを悩むどころか、
まるで嘘を知らないようだった。

僕はあの子が大好きだったけれど、
自分にも周りにも嘘をついていた。
道徳や社会の授業で先生の話を聴く度に、
あの子や友達と話す度に、
疼く心から目を背けていた。

「私の家もこっち側なの。一緒に帰ろう。」
「嫌だ。一人で帰るから付いてくるな。」
「お前、あいつとお似合いだぜ。」
「うるさい。そんなわけないだろ。」
「僕はあいつなんか嫌いだ。大嫌いだ。」

あの子はきっと大人になった今でも、
綺麗な笑顔のままだろう。
僕は嘘にまみれていた自分が今でも嫌いだ。
そしてあの子を思い出す度に出てしまう、
ぎこちない自分の笑顔が大嫌いだ。


24/03/15 12:22更新 / わたなべ
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