瞼の裏の交差点
瞼の裏の仄暗い交差点
整備不良の車に乗った僕に
信号機の上からカラスが喚き立てる
今夜はこの顔だ さあ轢け 潰せ ほら早く
奴は知っている
この車が止まれず 曲がれず
後戻りもできないことを
僕が大切な人の顔を轢く瞬間を待ち望んでいる
昨夜は母の顔を轢いてしまった
その前には父 祖父母に親戚 友人の顔も
みんな笑顔で泣いていた
そして今夜は ああ ついに恋人の顔だ
もう嫌だ うんざりだ
僕はどうして走り続けるのだろう
この旅路の果てに何を見つけるのだろう
もういっその事 自分の顔を轢いてしまいたい
いつまでも辿り着けない歪な地平線
左右では歓楽街が僕を誘惑するように揺らめき
皮膚や毛髪 眼球を踏みにじる感触が
タイヤを通り越して足の裏に伝わってくる
やった 轢いた よくやった
お前はそれでこそお前だ
があがあがあがあ
があがあがあがあ があがあがあがあ
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