ゆりかご団地

母さんが食べた煎餅の粉が
テーブルの上で輝いていた
父さんが吸った煙草の煙が
壁を黄昏に染めていた

あれは幻のゆりかご団地

毎日のように友達と
広場や階段を駆け回っていた
宿題も門限も忘れて
こだまする笑い声を追っていた

儚い夢のゆりかご団地

また会おうねと約束をして
笑顔であの子の手を握った
もう二度と会えないと
分かっていた 分かりたくなかった

滲んだ記憶のゆりかご団地

虫食いだらけの古い地図を
重い瞼の裏に広げて
僕は探し続けている
帰りたい場所 帰れない場所

遠い何処かのゆりかご団地


24/03/05 20:36更新 / わたなべ
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