神様が消えた日
あの日、東の空から西の水平線に向かって、
大きな顔が落ちていった。
大人達にはその顔が赤ん坊のように、
子供達には老人のように見えた。
目に涙を浮かべた、誰もが知っている顔だった。
僕は丘の上でその光景を見つめながら、
隣に立っていた彼女に言った。
「君のことが好き。君が一番で自分は二番だ。」
彼女は少しの間を置いて言い返した。
「私も君のことは好きだけれど、自分のことが一番好き。」
ぼんやりとした足取りで家に帰ると、
父さんと母さん、庭で飼っていた犬もいなくなっていた。
冷蔵庫に貼られた皺だらけのメモ用紙には、
父さんからの短い伝言が殴り書きされていた。
「真実の為に。さようなら。」
僕は一人、ベランダから街を眺めた。
家々は明かりを消して、道路も静かだった。
いつまで経っても朝焼けが流れてこない空と、
それに対して少しも不満を持たない自分が、
不思議でならなかった。
あの日。東の空から西の水平線に向かって、
大きな顔が落ちていった日。
大人達も子供達も孤独の意味を知って、
目に涙を浮かべた。
寒さに震えて、誰もが心の殻に閉じ籠もった。
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