実存的不安
ひび割れた三日月の下 寄せては返す波に浸り
へその緒の血を洗い流した
潮騒と共に響いてくる
誰かの泣き声に耳を澄ましながら
僕は自分が分からなかった
月を見てあれは月だと 波を見てこれは波だと
どれもすぐに理解することができたが
自分の名前だけは思い浮かばなかった
少し離れた浜辺では 沢山の子供達が
海水で砂を固め家を作っていた
僕は彼らの虚ろな瞳に恐怖を感じ
近付くことができなかった
それからは誰に会うこともなく
仄暗い海を彷徨い続けている
淋しさも 争いへの希望も
変わらない景色の何処かに置き忘れてしまった
ああ 僕はあの日 生まれたのだろうか
それとも生まれ損なったのだろうか
ひび割れた満月の下 腐ったへその緒を弄っていると
遠い昔の記憶が蘇る
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