夕焼け空のままでいて
夕焼け空が寂しく見えたのは
青空を思い出してしまうからだった
呑気な顔で浮かんでいたあの雲は
今頃 もう地平線にいるだろうか
公園に止めていた僕の自転車は
こんなにサドルが低かっただろうか
夕焼け空を見て不安になったのは
夜の気配を感じてしまうからだった
虫の鳴き声も 街路樹のざわめきも
こんなに不気味な響きだっただろうか
空き家だと思っていた家の窓から
どうして濁った光が漏れているのだろうか
あれはもういつのことだか忘れたが
僕は寂しさや不安な気持ちは
時の流れがもたらすのだと思った
だから 強く しつこく 願い続けた
ずっとずっと 夕焼け空のままでいて
夕焼け空のままでいて
夕焼け空に思わず見とれてしまったのは
朝焼けにどことなく似ているからだろうか
雲はきっと 何事もなかったかのように
また呑気な顔で浮かぶだろう
もう自転車に乗れなくても 押して帰ればいい
乗りたがる子がいたらあげてしまおう
夕焼け空の下でとぼとぼと歩きだしたのは
薄暗さに目が慣れたからだろうか
どんな喧騒でもいい 自分の溜め息よりも
誰かの声や物音に耳を傾けていたい
街灯のない路地に入り込むと
家々の窓から漏れる光の温かさを感じられる
これもいつからか憶えていないが
僕は希望や安らぎをもたらすのも
時の流れではないのかと思い始めている
けれど まだ名残惜しい気持ちもあるから
もう少しだけ 夕焼け空のままでいて
夕焼け空のままでいて
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