巡り行く夏の夢

陽炎の奥 沈む夕陽は
遠い昔に投げ捨てられた
真っ赤にただれた脳みそで

母の胸元を思わせる
なだらかな山並みの影に
郷愁を歌う ぼやけた残像

追いかけるのは 影 残像

気付けば 錆びた自転車は
チェーンの軋む音の代わりに
日暮の声を響かせて

前のつもりで後ろに進む
昨日の夢は砂利の小道
行き着く先の 明日は幻

どこまで行っても 夢 幻

天狗に会ったと 鬼に会ったと
幼い僕の心を乱した
寂しさの理由を今頃知って

瞼の縁に染み付いた
涙の痕に一人きり
俯いている あの男の子

陽に焼けた頬を伝い落ちる
涙の筋に一人きり
佇んでいた あの男の人

僕の姿は 夢 残像

僕の姿は 影 幻


23/02/10 21:23更新 / わたなべ
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