閉鎖病棟
蛍光灯の薄明かりが照らす背中は
惨めに萎み 絶え間なく震え
何に怯えているのだろうか
廊下の錆びついた床を鳴らす足音は
硬く響いては 弱々しく消え
一時も落ち着けないのだろうか
閉鎖病棟では眠れない
朝から晩まで それどころか
朝か晩か分からなくなるまで
目も 耳も 等間隔で刺激され
僕はもう諦めかけている
時間を計ることに 距離を測ることに
意味を見出だせなくなっている
自分を誰かと区別したい欲求に
希望を見出だせなくなっている
センチメンタル 偉大なあの人が
医長を務めていると聞いたのに
医長は燃える水平線で往診中です
医長は儚い星影で往診中です
門下の医者達は揃いも揃って
冷たく薄汚い奴ばかりだ
ああ それは土砂降りの中
纏わりつくせせら笑いに
心の芯を折られて見る夢だろう
それは枕を求めてさ迷った後
廃墟の割れたブロック塀に
溶け出した脳を置いて見る夢ね
時に甘美な 時に辛辣な装飾を施し
奴らは僕の涙と思い出を
根こそぎ奪い取っていく
そして一向に診断は下さず
白紙の処方箋だけを
気だるげに積み重ねていく
出来ることなら戻りたい
戻りたいのは 一体 いつ
出来ることなら帰りたい
帰りたいのは 一体 どこ
出来ることなら出逢いたい
出逢いたいのは 一体 だれ
閉鎖病棟からは抜け出せない
行き着く先は袋小路だと
揺るぎない確信があるというのに
蛍光灯の薄明かりが照らす背中は
惨めに萎み 絶え間なく震え
僕は何に怯えているのか
廊下の錆びついた床を鳴らす足音は
硬く響いては 弱々しく消え
僕は一時も落ち着けないのか
TOP