迷霧の連弾 109
ヒグラシの声に
導かれるように
生徒たちが次々と
テントから出てきた
みんなヒグラシの声に
苦情を申し立てている
そこへ田宮先生が現れて
ああ夏の朝だなあと言って
大きく深呼吸をした
ある生徒が
こんなに早く起こして
何をするんですかと尋ねた
先生は夏にしか聴けない
ヒグラシの大合唱を
堪能するに決まっている
まるでみんなが
ヒグラシの鳴き声が
好きであるかのように言った
生徒たちは文句を言いながらも
他に何もすることがないので
友だちと雑談を交わして
時間をやり過ごしていた
理恵は目を閉じて
顔を斜めに上げて
両手を胸に添えて
ヒグラシの声を
夕べのビートルズの歌のように
聞き惚れていた
そんなの理恵姿を
もう二度と見られない気持ちで
ボクは見つめていた
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