迷霧の連弾 109

ヒグラシの声に

導かれるように

生徒たちが次々と

テントから出てきた

みんなヒグラシの声に

苦情を申し立てている

そこへ田宮先生が現れて

ああ夏の朝だなあと言って

大きく深呼吸をした

ある生徒が

こんなに早く起こして

何をするんですかと尋ねた

先生は夏にしか聴けない

ヒグラシの大合唱を

堪能するに決まっている

まるでみんなが

ヒグラシの鳴き声が

好きであるかのように言った

生徒たちは文句を言いながらも

他に何もすることがないので

友だちと雑談を交わして

時間をやり過ごしていた

理恵は目を閉じて 

顔を斜めに上げて

両手を胸に添えて

ヒグラシの声を

夕べのビートルズの歌のように

聞き惚れていた

そんなの理恵姿を

もう二度と見られない気持ちで

ボクは見つめていた

25/12/29 01:20更新 / 秋時雨
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