ポエム
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知らなかった事
お化けみたいな青草たちは、
ザワザワとおしゃべりして、
僕を嘲笑っている。
川面を流れるカモだけが、
僕に公平な眼差しを向ける。
大きな木はだんまりを決め込むお父さん。
太陽は珍しく雲に隠れている。
どうせ天界で、僕の悪口でも言って楽しんでるんだろう。

川の水を僕は横目で見遣るけど、
彼女は決して目を合わせない。
もういいや、これが僕の人生なんだ。
かなかなの鳴き声がやけにうるさい。

すると空を飛んでいたカラスが、
燻銀の柵の上に降り立った。
「俺はこの街一番の嫌われ者さ。
人を上から襲ったり、
ゴミを漁ったり、
ハンガーを盗んだり」
僕は黙って聴いていた、
鈴虫の声がやけに澄んで、宝石のようだった。

「でも君はどうだい?
自分であることをやめていないだろう?
君が君でいれば、きっと大丈夫」

カラスに何がわかると言うのか。
冷め切った思いをバッグに詰めて、
乾いた川の歌声を聴いて歩いた。
土を踏んづけながら。

僕はその時は知らなかった、
僕であることをやめなかった僕が、
僕と出会うこと。
23/08/27 20:10更新 / たろう



談話室

■作者メッセージ
僕が最終的に出会う「僕」とは、何人かの大好きな友達に囲まれ、幸せを感じている今の「僕」です。

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