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彼女は宇宙人ではない 1&2
1

その頃、
僕の心にはぽっかりと穴が開いていて
埋められる何かを探し続けていた。

海辺の街にひとりで遊びに行って、
僕は彼女と出会ったんだ。

夏も終わって
ひと気もない砂浜で、
なにかを懸命に探しているようで、
座り込んではなにかを拾いあげ、
太陽に透かしてみては、
その可否を確かめろようで、
合格のものは、小手に抱えた
丸みをおびた白色の小さなバスケットに
そっと入れていた。

とても興味を持って
ずいぶん長い時間
飽きもせずに彼女の所作を見ていたんだ。

気がついて、気に触ったらしく、
ずんずんと私の方へ近づき、
あとで彼女から聞いた表現でいうなら、
犬コロでも見るような目で、
僕のことをやぶにらみしながら、
『なにか、ご用ですか?』と、
口尖らせながら
「見るな、」という意志まんたんで、
一応「ですます」調の質問のかたちで、
威(おど)しをかけて来た。

僕は、言外の強い意志には
まるで気づかない振りして、
『なにを拾われているか、ちょっと、気になりましてね』
と、視線を彼女の目から逃がして、
海の、それも遠いところを見ながら返答した。
目が、ちょっと、怖かったので。

『私がなにをしようが、あなたには関係のないことです。部外者は、口を挟まないで下さい。」
攻撃的なほどはっきりした口調で、
言外ではなく、そのままの意味で、
興味を持つことさえ、拒絶された。

ただ、彼女のその意志に従うかどうかは、
僕の自由ではあるのだが。


2

『わかりました』と、答えて、
僕は、砂浜を海の方へ向かって歩き始めた。

え?と少し驚いた顔で、
『あの、そちらには、なにかご用がお有りですか?』

『ええ、僕も少々、こちらで探し物がありまして、ね』

そのいい加減なウソをすぐに見破った彼女は、
自分をやり込めようとした僕のウソに対し、

『なにを、お探しですか、私が知っているものかもしれませんから、ご相談いただければ、お力になれるかもしれませんよ。』

『いやぁ、奇遇ですねぇ、僕の方もちょっと部外者にはお教えできない内容でして、ひとりで探さなければダメなんですよね。』

1度、軽くだが、彼女が下唇を噛んだのを
見逃さなかったが、
その直後の作りものにしては、可愛すぎる、
まるで心蕩(とろ)けさせる透きとおる笑みで、
見事なフォローを入れた。

『では、お互い、べつべつに、それぞれの探しものを探しましょう?』

『あ、でも、そうですね。こちらでふたりして、探しものをするのもなにかの縁です。お昼は、もう採られました?』
まだだと応えると、
『では』と、近くのカフェらしきものを指差し、
『あの、落陽みえるたそがれの丘の店、で、』
いっぱく間を置き、
もう1度さきほどの心蕩けさせる笑みを浮かべ
『ええ、ナンパと思っていただいてけっこうですよ』
と、きたもんだ。
『お食事でも、ご一緒させていただけませんか?』
ハハ、逆ナンパなんて、生まれて初めてされた。




19/03/08 07:58更新 / 花澤悠



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