ポエム
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ティーネージトレイン
伝えたい思いがなくなったことは
僕にとっては幸せの証で
あなたと交わす言葉も減って
それが感謝の輪郭を濃くする

知らない間に乗ってた青いバス
未来行きの列車に乗り換えて進む
僕の心は満たされているから
言葉を必要とすることもない

黄色い車体はガタゴトと揺れる
僕の乗り込んだティーネージトレイン
カラマツの森を突き抜けて進む
痛みの数だけ僕らに誇りを

未来という名の駅に着いたら
太陽のような真っ赤な毛色の
空飛ぶペンギンが僕を導いた
僕らに誇りをくれる泉へ

泉の水を飲んでから気づく
辺りの木には穴があいていた
そっと覗くと見えてきた景色
これまで積み上げた日々の思い出

僕というキャンバスが彩られた日々
僕が色を持つ「かげ」を得た日々
そこにはあなたの姿があった
いつの日も僕を支えてくれてた

あの日に僕が気にしてたことも
今ではつゆも気にしなくなった
大人になるということはつまり
心の傷に鈍感になること

誇りだけ僕に与えておいて
僕を置いてったティーネージトレイン
必ず帰ると約束したのに
あなたの元へ帰れるだろうか

泉の澄んだ水の中へ潜り
あちこち探して見つけた石は
ブルーベーリーの形をしていた
それを木にあいた穴に落とした

すると紫の世界へ飛ばされた僕
辺り一面に咲くクロッカスの花
そこには緑のツタをまとった
古びた一両の車両があった

電車の中へと乗り込んだ僕は
運転席に腰をかけてみた
ハンドルを手で握ったら音がし
電車は前へと進みはじめた

紫の景色を横目に流し
二十歳になった僕が乗る列車
行き着いた先は小さな街だった
そこには三つの建物があった

苦い思いを共にした場所
家と病院とカウンセリングルーム
帰り着いた僕を待っていたのは
記憶に揺れる暖かな声だった
23/08/04 02:14更新 / たろう



談話室

■作者メッセージ
十代を終えて、二十代になって。やっと自分らしさが掴めてきて、自分を生きられるようになって。緑のツタをまとった古びた車両は、僕が時間をかけて、心のなかで育ててきたもので。

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