ポエム
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夏座敷ふたり
父を訪ねた
暑い暑い午後のこと

部屋の中は外と違って涼しく別世界のよう
畳に座るとエアコンの風でひんやり冷たい
あなたはいつものように椅子に座って私を
待っていた
こんにちはと声をかけるとこんちはーと元気
な声 良かった

昼食を取りながらあなたに話しかける
最近の出来事 家族や仕事のこと
あなたは黙って食べ続けて聞いていないのかな?
と思うと時おり顔を上げてそうかと答える
ちゃんと聞いてくれてるんだ

お腹を満たされてあなたはウトウト居眠り
椅子にもたれた体はちんまりと小さい
無防備な顔はとうに年老いて この古びた家と
同じ昭和の面ざし

あなたはこの頃 おまえが来るのが楽しみだ
なんて以前は言わなかったことを言うように
なった
今も思いがけなく言われて私も楽しみだよと
返したけど慣れなくてとまどってしまう

年をとってあなたは自分の気持ちを言葉にする
ようになったんだね
嬉しいけど昔の無口なあなたを思い出して複雑

素直で不思議なほど無垢に感じる
あなたの中に小さな子どもがいるような
私の知らないあなたが顔を出したような
そんな気がして

帰るときいつものようにまた来週と言って
握手する 今日は少し力が弱い
転ばないでね、と声をかけると大丈夫という
ように手を上げた ちょっと安心 でも心配

いつもと同じだけど以前とは違う
徐々にあなたは衰え やれない事が増えている
畳に座ること 杖なしで歩くこと

これから先 少しづつあなたの手はほどけて
いつか私の手をすり抜けてしまう
二人で過ごす時間はあとどれくらい?
考えてすぐ打ち消した

今はただこの手を包んでいよう
この小さな世界を大切にしよう

玄関を出ると外はまだ熱い空気が立ち込めている
あなたと私 四度目の夏がめぐった
20/09/12 08:11更新 / 香弥



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