麝香豌豆開花日譚
鈍色が輝く夜。街は緋色に染まり、雨は色を覚えていた。
幽かに聴こえる旋律は、黄色の喧騒に掻き消され、
僅かに湧き出る戦慄は、緑色の希望を掻き消した。
永遠かと思われた時は過ぎ、いつもの様に夜は明けた。
最後に残ったのは私と言う孤独だけだった。
活字を走らせ、少しでも記録を残そうとした。
読む者なんて、もう残って居ないのに。
私は一度手を止め、腐敗した酸素を肺に取り込んだ。
ふと、机の端に飾られたスイートピーが眼に映った。
その花は穢れた世界で尚、力強く咲き誇っていた。
スイートピーの甘い香りを嗅ぎ、気持ちを整えた。
破壊も再生も、全ては犠牲を糧に回っているのだ。
そんな事を胸に叩き込み、私は78億の希望を創る決意をした。
最後の花と瀕死の世界に別れを告げ、私は創られた神を動かした。