半ドア
「そんなに強く閉めたら壊れるでしょう」
子供の頃
母が父によく言っていた
土建の仕事をしていた父は
背中も大きくて
腕も太くて
力持ちで
いつも家族で車に乗ると
車もびっくりするような
そんな勢いでドアを閉める
バタン!
気の短い父は
眉間にシワを寄せ
俺の車だから勝手にさせろと
母の言葉に被せるように言う
何度も同じデジャブのようなやりとりを
呆れた顔でいつも聞いていた
あれから
20年が過ぎ
父は病気を患い
背中は小さく
腕もみるみる細くなった
病院から自宅に車で送ろうと
父を助手席に乗せる
自宅の駐車場に着くと
父はエンジンを切る前に車から降りようとする
「お父さん危ないでしょう、せっかちなんだから」
後ろから母がそう言うと
うるさいなあと
気の短い父は被せるように言う
呆れた顔でそれを聞く自分
20年前から
変わらない光景
父が車を降りたあと
ドアが半ドアになっていた
母はそれを
何も言わずに閉めなおした