ポエム
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最期
じゃあ行ってくる。

うん、頑張ってね、父ちゃん。

あなた、気をつけてね。






......



ん...



ん...気を失っていたのか...


ここはどこだ...
真っ暗だ


動けない



とんでもない爆音だ
身体が痺れる
気絶しそうだ

なんとか声をあげないと

誰か...

助けてくれ...

こんなところで死ぬわけには...


まだ父親としてするべきことがあるんだ
ちゃんと教えてあげないと


効率のよい吸い方
美味しい血液の見分け方
気付かれないように上手く皮膚に触れる方法



あの子が一人前になるまでは
こんなところで私が死ぬわけにはいかない



耳の穴でなんて



せめて死ぬのなら
必死に立ち向かった勇姿を伝えてほしい


キンチョール
蚊取り線香
丸めた新聞
少年マガジン

そんな兵器に立ち向かったという父親の勇姿を

伝えてほしいのに

なんで耳なんだ

なんで...


もしこのまま私が息絶えたら
明日の朝刊になんて書かれるだろう

「脇見しながら飛んでいた40歳男性、気付かず侵入した耳の穴の中で死亡」


活字ならいけるか...


いや恥ずかしい
ダサすぎるではないか


家族も私のせいで後ろ指をさされて生きていくことになる

「あの子のお父さん、耳フェチだったのね...」


そんな会話すら聞こえる


やめてくれ...

バシッとやってくれ
ジェット噴射で追いつめてくれ


どうして...


どうして耳なんだ。
20/02/20 22:51更新 / もぐり



談話室



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