〜３人のゲーム〜前編
某月某日の夜８時半を過ぎた頃、それほど高くない山の中腹を少し過ぎた所を２台の車が脇道へとそれて行き、道が獣道へと変わろうかとする手前に建つ小屋の前に止まった。先に着いた車の運転席から両サイドを刈り上げて
有名スポーツブランドのウエアーを着こなしている体格の良い男、会員制
スポーツジムでチーフトレナーをしている武内　達也（タケウチ　タツヤ）が
スーパーのレジ袋を提げて降り足早に小屋の入口へと向かった。小屋のドアに
鍵が掛かっているのに気が付き「ドアに鍵がかかっているぞ。琴李、鍵は誰が
持っているんだ？」と呼ばれて助手席からパーティの帰りかと思わせる程の赤い派手なドレスに毛皮のハーフコートを肩から掛けて女が降りて来た。
武内達也に呼ばれたモデル体型の女は深水　琴李（フカミ　コトリ）と言い、夜はキャバクラで働きながら昼間はファッション雑誌の契約モデルとして席を
置いていた。「小屋の鍵は陵介が持っているんじゃないの？陵介の知り合いの
山小屋なのでしょ。」少し遅れて着いた車から降り際に曇り一つ無い革靴に
履き替え、ブランドスーツに身を固め長髪を後ろで束ね眼鏡をかけた少し
神経質そうな男が降りて来た。加賀見　陵介（カガミ　リョウスケ）は
フリーのイラストレーターだった。羽振りが良いのは趣味で始めた投資が
順調で仕事も投資も部屋から出ずに済む事から両立出来ている様だ。
「慌てる必要などないだろ達也、時間は有るのだから琴李のエスコートを
してやってくれ、小屋の前は舗装されて無いから歩き辛いからな。」加賀見の
言葉に無言で車の方へと戻り深水を軽々と御姫様抱っこして小屋へと歩き
出した。加賀見も追いつき小屋の鍵を開けて部屋の明かりを付けた。
部屋の中で武内の腕から解放された深水が「思ったより広くて綺麗じゃない。」と武内への礼でなく部屋の感想を言いながら椅子が汚れてないかと確かめていた。