ポエム
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痛ましい枯野
画布に描かれた
レオナルド・ダ・ヴィンチ作 モナ・リサの背景のように
ものさびしい枯野に佇っていた
富士西麓の
原野に
荒んだ裸木が 一本 立ちつくしている
木のところへ 行って
木を視ていると
木のほうにも眼があって 僕というものを視ている
秋口の頃に来襲した 台風のせいで
根元がえぐられており
えぐられたところに 木の根が剥き出しになって
走り根のさきの 繊毛のような
すみずみの根まで
ぼろぼろと干からびた土がくずれ
無惨にも 日に晒されている
視てはいけないもののような気がした
これが 木か
死にかけて
これを木 と いうのか
これを視て ものを言えというのか
こんな おそろしい生きざまがあるか
僕は そこから
目を逸らせようと したけれど
逸らすことは できなかった
憂き世に於いて
樹木の死ほど いたましいものはない
ぎぎぎぎぎぎ ぎぎぎぎぎぎぎ
身のうちのふるえを どうすることもできぬまま
僕は永らくその場から動けないでいた。
22/11/21 01:56更新 / 指田悠志



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