ポエム
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祈り
「未来の子どもたちに
 借金を残すな!」と

 ツケで甘い汁をすすった
 バブル世代の
 おじいちゃんたちが
 返す気もない借金を人質に
 ポストバブル世代の
 子や孫たちを
 脅すから
 
 世はまるで
 フランス革命前夜の
 きな臭さ

 ラーメン屋の窓枠に仕切られた
 元旦の上空は日本晴れで
 十数羽の白鳥が
 キラキラとさざめく軌跡を
 描きながら
 隊列を成して飛んでゆく

 19世紀の
 空想的社会主義者さながら
 彼は叫んだ

「健全な国民の
 健全な資本(主義)による
 健全な社会(主義)のための政治!」

「金も学歴も
 単なるイデオロギーだから
 賞味期限だって付けられるさ」
 と豪語する
 弱者男性たる彼がまた
 政治献金に消費税を課すという
 素晴らしいアイデアを
 閃いたらしい

「むしろ誰もが金になびくべきで
 社会もそう設計すべきだからこそ
 献金になびかぬ政治家なぞ
 歪で不健全極まりない」
 と彼は断罪する

 そのうえで
「100万円献金したいなら
 本体価格100万円
 消費税は100%で
 200万円のお支払い
 税額分は反対政党へ分配
 もちろんインボイス制とする」
 のだそうだw

 そんなことは、どうか
 石破総理か 玉木雄一郎か
 いっそのこと
 山本太郎にでも
 言ってくれ

「なんで生きているのかねぇ」
 (「正月くらい休みたい」)
 と彼は軽くため息をつく

 そう考えながら生きていても
 別に差し支えないからでしょう?

 人間なんて
 その日その日の
 体調や気分で
 考えることも
 変わるものだし

「幸せです」というのは
「お腹いっぱいです」だし
「もう 十分です」だし
「もう うんざりです」だし
「それ以上 近づくな」だし

 そうね
「死にたい」
 と言うんじゃなくて
「眠りたい」とか
「帰りたい」とか
 言うことにしよう

 明滅する白鳥の群れが
 急に旋回し始め
 慌ただしく
 窓の枠外へと消えていく

 死という事故も
 もしかして こんな風に
 突然に決まった転勤みたいに
 慌ただしく訪れるのかもしれない

 どうせいつかは別れるんだし
 まぁ いいか

「『祝福』って
 なんてこたぁない、
 呪いのことだよねぇ?
 あるいは
 『さだめ』とか
 『宿命』?」

 せっかくのご馳走の味も
 彼の話のせいで
 なんかモヤモヤしてくる

 モヤモヤといえば
 昔 彼女が散策のたびに
 野花を手折ってきては
 部屋にあったテーブルの花瓶に
 それを挿していたことを
 思い出す

 所有ってなんだろう?

 あそこに咲いていた花と
 今ここで咲いている花と
 どう違うのだろう?

 指輪を彩る宝石たちが
 地中深い鉱脈で眠るのと
 ショーケースで煌めくのと
 彼女の手指で小さく光るのと
 どう違うのだろう?

 ピラミッドを気に入ったら
 ピラミッドさえ
 手元に置いておく
 なんてことは
 さすがにないだろうけど

 君がどこにいたって
 きっと同じだよ…
 そう思っていたら
 そのうち 彼女は
 どこかへ消えてしまった

 吐き尽くしたのに
 吐き気だけ残っているような

 誰だって同じ

 どれほど優しい人だって 大抵は
 部屋でゴキブリくんに出会ったら
 悪いけど死んでもらうね
 となる

 自分というのは
 自分の一部にしかすぎないし
 誰も自分が分からない

 誰もが
 恐怖や
 快楽や
 好奇心に
 人形のごとく弄ばれ
 そして弄ぶ

 そもそも
 弄ぶということが
 知恵ある霊長類の特徴であり
 所有の起源であり
 ゲームの起源であり
 好奇心の証でもあるような

 ずっと生きていると
 そんなふうに思えてくる

「見ろ、人がゴミのようだ」
 ムスカ大佐が放った台詞に
 うわべでは嫌悪を表明しながらも
 それとは裏腹に
 少なからぬ人たちが
 奇妙なときめきを感じるのは
 それが 人類が囚われた
 あくなき好奇心への共感
 だからに違いない

 そして やがて押し寄せる
 衆愚の隠喩たる
 あの王蟲の大群

 あの群れを制御できるだけの
 超テクノロジーが
 きっとナウシカの脳内には
 我知らず埋め込まれているに違いない
 と疑っているんだけど

 この世界でも
 彼女のような
 善良な羊飼いが
 迷える子羊たちを
 上手に導いてくれたらと
 ぼんやりと祈るよ
25/01/28 00:03更新 / しそら



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