ポエム
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千の丘
山々を染め尽くした錦秋が
丘の方まで降りてきて

色づく公園通りの桜や銀杏
見下ろす河原の草紅葉も
眩しいほど照り映えて

忙しげに陽が傾きはじめ
揺れる色葉を透かす
陽光の煌めきも束の間

明日を照らしに
足早に過ぎ去る太陽から
世界を託された夜が
空と大地を 少しずつ
懐かしい冬へと誘っていく

たくさんの山を歩いて
たくさんの丘も歩いてきた

大空へと続く小高い丘
広がる水平線を見渡す丘
コスモスが静かに揺れる丘
星に手が届きそうな高地の丘
人々や乗物が絶えず行き交う丘
鎮守の森 鯉が泳ぐ大きな沼
川が流れている丘もあった

人間に傷つけられた丘や
何かの事情で放棄された丘も

たくさんの生き物にも出会った

用心深い狐や狸
向こう山を追われた鹿や熊
大食漢のバッタ 精巧な蜘蛛の巣
小忙しい雀 のんびり屋の烏
突然走り出す雉
さまざまに舞う蝶 踊るトンボ
五月蝿い蜂 忍び寄る蚊
賑やかな蛙の民謡
かわいい瞳をした蛇もいた
そして 嫌われ者の人間

冷え込みはじめた宵闇で
月姫を誘いに輝く一番星

その下に横たわる
なだらかな丘のシルエットに向かい
列なす車の前照灯や赤尾灯が
脈打つように延びている

この丘はあの丘へと続き
なんなら
歩いていけば辿り着く

遠くを見ていると つい
どう行けるか 考えてしまう

それは つまり
動物であることの愉悦

そして あの丘の向こうにも
また違う丘があり その先にも
山や谷をはさみつつ
人間が法定した境界など越えて
もっとたくさんの丘があり
いろんな生き物がいて
いろんな人がいて
いろんなふうに見えるんだ

今 あなたがいる丘と
今 ぼくがいる丘も
  同じくつながっていて

それは
とても嬉しいことなんだ

そんなことを なんとなく
思ったんだ
22/11/10 12:21更新 / しそら



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