ポエム
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香花は瞳を上げさせる
凍った大地の奥深く
思いは眠っている

だから目を凝らしても
氷の向こう薄い月明かりの中
黒い影が見えるだけ
大地を掻く指先は冷たさに阻まれ
痺れと痛みばかりを生んだ

沈み込んでしまった思いに
もう私は届かない
そう認めるのは辛くて
落とした瞳には涙が浮かぶ

けれど伏せた顔の鼻先を
だれかがぱしりと叩く
下ばかり見ているんじゃないよ
聞こえない声は確かにそう告げて

瞳を上げて
ほら全身で感じてご覧
見えているものそれだけが
君の世界じゃないのだから

小さな白花は蕾を開き
甘酸っぱい香りを振りまきながら
私の鼻先をまた一つ
弾いて夜の向こうへ走り去る

残された私は凍った大地に瞳を落とし
やがてゆるゆると立ち上がる
春へと走り出すために
冬へ別れを告げるために
20/11/26 08:48更新 / ねこK・T



談話室



■作者メッセージ
―― 沈丁花「夜を渡る風」

「回遊魚」様(現在は閉鎖)の「香る花五題」を元に。

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