ポエム
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ぼくとウィスキーと彼女の5月
かつて彼女と暮らしたあの頃、彼女は一度だけこう言った。
「あなたとキスするといつだってウィスキーの味がする」って。
唇がはなれるときの彼女の目をぼくは一生忘れないだろう。

ぼくらはよく晴れた5月の午後、バスに乗って植物園へ行った。
彼女の作ったお弁当。デザートはマンゴー。
ぼくのジーンズにはポケット瓶に満タンのウィスキー。
広く開けた芝生の上でフリスビーを投げあい遊んでいると、
ぼくは、時間が波打つような空間にノイズが走るようなめまいを感じた。
そして、あの頃よくそうだったように体が急に重だるくなり視界が暗くなり、
ぼくの投げたフリスビーが揺れすぎて、
ぼくらの間に落ちたとき、
ぼくは芝生に倒れこんでしまった。

半分空いたウィスキー。
鼻からしたたる太陽の下のぼくの血。
かなしそうにかけよって来る彼女。
水色のハンカチ。
置き去りにされたオレンジ色のフリスビー。

彼女はそうするしかないように少し笑う。
5月の植物たちは、美しく頼もしかった。
そのことが、彼女ために、ぼくはうれしかった。
5月の日陰から見上げる彼女のための5月の空だった。


19/11/10 19:18更新 / ちはるお



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