ポエム
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希望の命  〜〜 コロナ下の五輪に想う三つの命 〜〜      
私は朝焼けが好きだ。
東の山の上が赤く染まりながら、夜が明けていく。
これから太陽が上っていく。
エネルギーが充電されていく。
生きていく。生きている。そんな想いがする。だから、朝焼けが好きなのだ。

2021年7月 梅雨空が去った頃、東京五輪は開幕するはずである。
しかし、コロナという暗雲が覆っている。
恐ろしいウィルスだ。
未知で、致死率が高かった。

私は、コロナを思うとき、三つの命を考える。

一つ目が、コロナの命だ。
コロナが奪う命のことだ。
多くの人が亡くなった。しかも、まだ、終わっていない。長くつらい戦いは、これからも続く。人間は、逃げることはできないし、戦い続けなければいけない。
コロナの前では、命ははかなく見えるが、克服しつつある。

二つ目の命は、希望の命だ。
コロナは、私たちの日常生活の多くを奪っていった。
最たるものが仕事であり、収入である。
おカネが私たちの社会で回らなくなったとき、私たちは、耐えるモードにはいった。
耐えて、耐えて、耐えた。
耐えることにも限界がある。
耐え続けることに、未来の希望が見えなくなったとき、ふと魔がさすこともある。
人間は、希望を失ったとき、命を絶つことを選択肢の中にいれてしまう。
人間は、悲しい生き物だ。他の動物が生だけを意識するのに、人間は死を見つめることができる。
私たちには、希望の命が必要なのだ。
コロナ下の五輪を思うとき、勇気を与えてくれるものがある。
そう。アスリートたちの汗だ。
ほとばしる汗は、ただの汗ではない。にじむような努力と渾身の想いがつまった汗だ。
希望の命に灯りがともされるとき、私たちは、生きていくことの価値を新たに見出すことができる。

太陽の日差しを浴びて、冬眠していた動物たちが動きだすように、
太陽の日差しを浴びて、丘に緑があふれ出すように、
太陽の日差しを浴びて、虫たちがいっせいに飛び立つように、
生きている、生きていく。
希望の命には輝きがある。

三つ目の命は、アスリートたちの命だ。
絶対に守らなければいけない命だ。
命あっての競技だ。
命の前に競技があることはない。

五輪の戦いは、10競技、33種類ある。
 陸上競技、体操競技、水泳競技、球技、格闘技、射的競技、自転車競技、
 水上競技、重量競技、壁登競技(※)
それらすべてに、アスリートの、そして私たちの希望の命がある。

私の故郷の小川では、6月になると、ホタルがかすかな光で飛翔する。
ホタルははかない生き物だ。
水の中で、人生の大半を過ごし、成虫になると、光を放って、1週間ほどで命を終える。
私たちがホタルの光に惹かれるのは、なぜだろう。
ホタルの光はかすかであっても、決して弱弱しくはない。何度も何度も点滅させながら、強い気持ちを光に乗せている。
ホタルは、確実に、生きているからこそ、光を発している。

私たちの命だって、はかないものだ。
永遠に生き続けることはできない。どんなに長くたって、150年は生きられない。地球の長い歴史から見れば、瞬きの一瞬ですらない。
アスリートの輝きは、さらにその一瞬だ。
しかし、その光は、生きている。希望の輝きに満ちている。
ひたたる汗と、食いしばったときに満ち満ちるエネルギーのかたまりが、その輝きに深みを与える。

私は朝焼けが好きだ。
これから上る朝陽を浴びて、思い切り背伸びをしてみる。
そのとき、私は太陽のそばで輝く星を見つけるだろう。
希望の光を発している星だ。
生きている。そして、生きていく。
希望の命に包まれた輝きの星だ。

アスリートたちよ。
あなたたちの命が、第一だ。
コロナで亡くした命たちは尊い。
希望の命は、未来続くメッセージになる。
かっこよくなくていい。泥くさくていい。
ほとばしる汗が見れればいい。
その輝きは私たちの瞼に届く。朝焼けに輝く一番星のように。
あなたたちが輝くその姿そのものが、私たちの希望の命になる。



(※)競技の分類は、一部公式なものもありますが、そうでないものもあ    ります。それらは、私のほうで分類をおこなったものです。全体的には、公式なものではありません。
21/05/22 07:56更新 / 城崎 トモ



談話室



■作者メッセージ
コロナ下で五輪の開催が政争の道具になり、マスメディアの恰好のネガティブ材料になっている気がします。本当に必要なのは、アスリートたちの本音ではないでしょうか(名誉も地位も獲得されたトップアスリートではなく、メダルを目指すアスリートたち)。そんな想いでしたためたものです。

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