ポエム
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拡散する、子宮の記憶で
男は走っていた。この見捨てられた街で、その身を投げだしどこまでも。
髪に虱を飼う無精髭なその男は「人生は美しくなければ…」と頻りに呟いていたが、その街に美しいものなど一摘みもなかった。
大気、水、地面、そのどれもがどこの誰の物かも知れない吐瀉物にまみれている。
大きな蛇を思わせる軌跡で、男は何度も何度も角を曲がり、その度にその先の風景を想起し、期待した。

最後の角を曲がった先にいたのは、女だった。蛾も集らないような淡い街頭の下にその女はただ無機質に佇んでいた。
「道を知らないか?すごく美しい場所なんだ。」
「知らない」
「君の名前を教えてくれるかな?」
「知らない」
「君はどこから?」
「知らない」
「君は何も知らないんだね。」
「そんな事ないよ。だって今あなたを知ったから。」
「君は本当にへんてこな女性だな。」

そして男はまた走り出した。その穢らわしい道を踏みしめる度に男は女を想った。何も知らない無機質な女。
「彼女の名は阿難にしよう。阿難、君は今どこに突っ立っているのだろう?あの場所を見つけたら彼女にも見せてやろう。彼女には穢らわしさは似合わないから」

19/12/20 23:15更新 / つたない



談話室



■作者メッセージ
the cabsの曲からタイトルを借りました
the cabsすきです

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