ポエム
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Chapel of Her
街から随分と離れた場所にあるうすら寂しい四角い箱の中、彼女はそこにいた。
コンクリートが打ちっぱなしの冷たいそこを、彼女は礼拝堂と呼んだ。
そこには椅子や十字架なんて気の利いたものはなく、あるのは彼女とコンクリートと
そこに差し込む僅かな光。彼女はクリスチャンではなかった。
「どうしていつもここに?」
「祈ってるの」
「誰に?」
「神様」
「そんなのいないさ」
「そんな事知ってる。祈りなんて届かないことも。でもここではこれしか出来ないから。私にはここで祈りをすることしか出来ないの」

俄に彼女が肩から溶けていく気がした。彼女の存在は僕の頭の中を猛スピードで駆け抜けていき、僕には彼女が見えなくなってしまった。僕は彼女が僕の意識の中に溶けていったのだと思った。

家に帰ってコーヒーを飲んでいるとまた彼女の声が聞こえたような気がして目を閉じた。手を合わせると彼女の温もりを感じた。僕らは誰の祈りも届かない空白の場所にいるような気がした。僕はそこを「彼女の礼拝堂」と名付けた。
19/12/18 15:32更新 / つたない



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