ポエム
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海腹
 T

タンポポの綿毛が飛んできた
僕の掌に乗ったその胞子は、
僕の心の
まだ誰も触れたことのない底に、
指一本触れた。

その瞬間、泣きじゃくっていた子どもの
この世の果てのような声が止んだ。
もう百年も音を失っていた海に、
クジラの鳴き声が響いた。

 U

あなたの優しさは綿飴のように
僕の心に静かに溶けていき
そしてあなたの感性は、
てんとう虫を摘み上げるような、
窓辺で眺める四月の暖かい雨のような、
非言語性と言語性が混じった、
玉子焼きの甘さのようにバランスをとった、
僕にとっての未知だった。

 V

少し頑張って早起きしたときの
朝靄の非日常性のよう
否、それは日常性も持っていて
けれど、いつだって蛇口から水が出てくることの
当たり前には決してならない。

だから僕は、あなたに花を
言葉の花を手向けたい。
出会ってくれたことが、最初で最後の最大だから。

 W

あなたはフライパンの裏のような太陽光と、透明なドーベルマンの突進めく寒風にも耐えて
誰だってわからないほどの痛みにさらされて
それでもその笑顔だけは、崩さずに生きて。

もう苦しまなくていいんだよ、
そんなおしゃぶりみたいな言葉が、
ずっと僕の心のなかで、滲んでいて。

もう苦しみませんように、
その言葉が成就する日を、
敬虔な坊主のように祈っていて。
24/05/20 16:19更新 / たろう



談話室



■作者メッセージ
僕の所属する文芸部に、尊敬する作家さんがいます。彼女は学友でもあり、僕の数少ない大切な友達の一人です。
彼女の作品に触れた時に起こる琴線の微動と、彼女の未来への願いを表現しました。

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