アイロニー
T
どうしてこんなことになったのか、
僕にも誰にもわからなかった。
床にこぼれ落ちた血は、
ただただ大声で哭き喚くばかり。
ハシビロコウの口をした女の、
尖いハイヒールの先に押しつぶされた、
渋谷スクランブルの上で冷たくなった、
血肉でできたカワウソの目玉。
もう取り返しがつかないんだ
僕の人生も、裂けた腕も。
置き去りにされたたばこの吸い殻のような、
汚らわしい、誰かに掃除されてしまう人生に。
誰も僕を覚えていないし、思い出したくもない。
今日もまた、あの夕日に照らされた、
ミズクサのような懐かしい集積所に運ばれる。
U
食べたくない野菜も、食べなければいけない。
それは誰もが、幼い頃、
母親か父親か、絶対的な資本家に教わること。
口の中で胆汁を出したナスも、
僕は我慢して飲み込んだ。
それが毒だと知らないままに。
僕を蝕んでいくその汁の、
潜伏期間は約十年。
十年たったいま、
僕の体はどこかがおかしい。
血液は碧くなり、血管のなかを自動車が通る。
あの鉄でできた、重たい殺人鬼が、
僕の体を、ぐるぐる廻っているとしたら?
だから僕は、腕から血を出して。
プラチナの飛蝗を取り除く必要に駆られる。
それは悪いこと?
いなよ、いなよ。
V
火に放り込まれたものは、すべて灰になります。
それがたとえ善意だとしても、人の持ち物を燃したことに変わりはありません。
灰という残留物は、タチが悪いです。
風に吹かれると、あたかも霧散したように思わされます。
だけど、今の時代、地面が土で無くなったせいで、灰が自然に帰ることはないのです。
ということは?
つまり、消え去ったかのように錯覚するだけであり、いつまでもいつまでも、それが無くなることはないのです。
繰り返しますが、人の持ち物を燃したことに変わりはありません。
灰は、消えることはないのです。
W
あなたが息を吸ったとき、心臓に尖い砂鉄が入り込みますから。
どうか注意してください。
どうしてこんなことになったのか、
僕にも誰にもわからなかった。
床にこぼれ落ちた血は、
ただただ大声で哭き喚くばかり。
ハシビロコウの口をした女の、
尖いハイヒールの先に押しつぶされた、
渋谷スクランブルの上で冷たくなった、
血肉でできたカワウソの目玉。
もう取り返しがつかないんだ
僕の人生も、裂けた腕も。
置き去りにされたたばこの吸い殻のような、
汚らわしい、誰かに掃除されてしまう人生に。
誰も僕を覚えていないし、思い出したくもない。
今日もまた、あの夕日に照らされた、
ミズクサのような懐かしい集積所に運ばれる。
U
食べたくない野菜も、食べなければいけない。
それは誰もが、幼い頃、
母親か父親か、絶対的な資本家に教わること。
口の中で胆汁を出したナスも、
僕は我慢して飲み込んだ。
それが毒だと知らないままに。
僕を蝕んでいくその汁の、
潜伏期間は約十年。
十年たったいま、
僕の体はどこかがおかしい。
血液は碧くなり、血管のなかを自動車が通る。
あの鉄でできた、重たい殺人鬼が、
僕の体を、ぐるぐる廻っているとしたら?
だから僕は、腕から血を出して。
プラチナの飛蝗を取り除く必要に駆られる。
それは悪いこと?
いなよ、いなよ。
V
火に放り込まれたものは、すべて灰になります。
それがたとえ善意だとしても、人の持ち物を燃したことに変わりはありません。
灰という残留物は、タチが悪いです。
風に吹かれると、あたかも霧散したように思わされます。
だけど、今の時代、地面が土で無くなったせいで、灰が自然に帰ることはないのです。
ということは?
つまり、消え去ったかのように錯覚するだけであり、いつまでもいつまでも、それが無くなることはないのです。
繰り返しますが、人の持ち物を燃したことに変わりはありません。
灰は、消えることはないのです。
W
あなたが息を吸ったとき、心臓に尖い砂鉄が入り込みますから。
どうか注意してください。