ポエム
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悲しみを打ち上げて
空気より良いものはないのです
それも寒い夜の室内の空気より良いものはないのです
――中原中也


今まで空気の味よりも良いものはないと思っていた僕に、
オムレツの味を教えてくれたのは人でした、
あなたでした。

あなたの真っ直ぐで偽りのない心は、
僕の取り繕うことの繰り返しでできあがった心を洗い、
まるで山の湧き水を手で掬って飲んだような、
清い、それでいて強かな心持ちにさせるのでした。



どしゃぶりの雨のなかを立っていた僕は、
通り過ぎていく人々を目で追っては、
妬ましいような、憧れのような、
醜くも儚い想いに囚われ動けませんでした。

ところがあなたは僕のまえで立ち止まり、
ひとつお辞儀をして、少し口角を上げたのです。
それがあなたとの出会いでした。



あなたはよく野球のバットをもつ真似をして、
体を大きく捻らせて、両手を振り上げます。
だから僕はあなたをバッテヰングに誘いました。

ひとつ、またひとつ球を打つたび、
僕の体の近くを舞っていた悲しみは打ち上げられ、
空へ、あの空へと遠くへ、
僅かながらも劇的に、飛んで行ったのでした。
24/03/31 18:53更新 / たろう



談話室



■作者メッセージ
僕の大好きな男友達に向けた詩です。

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