ポエム
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病む山
地面の底のくらやみに、
さみしい病人の顔があらわれ。
――萩原朔太郎


この山は病んでいる。
ひび割れた土は、
まるで病人の顔のよう。
山ぜんたいが、
ひどい、ひどい熱を帯び。

木々にはハリタケが寄生し、
白い湿疹がたくさんできている。

熱に冒され焦げてしまった地面のうえに、
カバノキの実がごろごろ転がって、
身を震わせている。
これは、山の目やに。
山の目には悪いものが、
たくさん、たくさん溜まっているということ。
涙などないから、外に吐き出せずに。

山が発露できない、
内に秘めたこの絶望、
声にならない慟哭。
もう取り返しのつかない、
人生をかけた後悔。

ひっきりなしに強い風が吹き、
一面に生えるササノハを殴り、
強く、強く引き抜こうとする。

いっぽう、林冠の下に、ちさい、暖かな眼差しもあった。
ウソの鳴き声が山をなだめ、
ツグミも一緒に優しく語る。

山は何も変わっていない、
誰もがそう思う。
けれど、山は毎年毎年、
たしかに変わっている、と。

それに気づいている者もいる。
そして暖かく見守っている。
山の後悔が、絶望が、
言葉にならなかった慟哭が、
山を変えてきた。変えている、と。
24/03/18 19:47更新 / たろう



談話室



■作者メッセージ
府中市にある、浅間山という、標高のとても低い山を登って作った詩です。

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