失投
窓を開けると五月の風と一緒に
校長先生が入ってきた
自分で握ったんだよ、と
おにぎりを食べてみせ
そのまま駅のプラットホームに並んだ
太陽の高さや空気の感じなどで
今日が午後であることはわかるけれど
ふと瞬きをすれば
呼吸は曖昧に繰り返されるばかりで
簡単に盗塁を許してしまう
合宿の最終日
大切な人はどうして死んでしまうのですか
と、顧問の先生に聞いた
大切な人が死ぬのではありません
死んだ人が大切なのです
その時、命は軽く語ることができるのだと知り
尊敬するならこんな人でいいと思った
洗面所の歯ブラシが穏やかな風に
音もなく干からびていく
タイムが告げられると
選手たちが一様に礼儀正しく集まってくる
代表の人に窓を閉めてほしいと言われ
それくらいしかもう出来ることはなかった
長い列車に収まった校長先生が
余りもののように小さく手を振っている
その列車では水面にしか行けないと
誰もが知っている二色の列車
多色の校長先生
不用意に投げた一球で
今年の地区予選は終わった