ポエム
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失投


窓を開けると五月の風と一緒に
校長先生が入ってきた
自分で握ったんだよ、と
おにぎりを食べてみせ
そのまま駅のプラットホームに並んだ
太陽の高さや空気の感じなどで
今日が午後であることはわかるけれど
ふと瞬きをすれば
呼吸は曖昧に繰り返されるばかりで
簡単に盗塁を許してしまう
合宿の最終日
大切な人はどうして死んでしまうのですか
と、顧問の先生に聞いた
大切な人が死ぬのではありません
死んだ人が大切なのです
その時、命は軽く語ることができるのだと知り
尊敬するならこんな人でいいと思った
洗面所の歯ブラシが穏やかな風に
音もなく干からびていく
タイムが告げられると
選手たちが一様に礼儀正しく集まってくる
代表の人に窓を閉めてほしいと言われ
それくらいしかもう出来ることはなかった
長い列車に収まった校長先生が
余りもののように小さく手を振っている
その列車では水面にしか行けないと
誰もが知っている二色の列車
多色の校長先生
不用意に投げた一球で
今年の地区予選は終わった

23/06/20 07:07更新 / たけだたもつ



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