距離
電車に乗ろうとしたら
頭の先から尾ひれの先まで
すっかり人魚になっていて
人魚は乗れません、と
電車の人に断られてしまった
取引先には遅れる旨連絡をして
しばらくホームで待つことにした
夏の暑さが人魚にとって
こんなに過酷なのだと初めてわかった
三十分後、ようやく
人魚専用列車に乗ることができた
これからどう生きたらよいのか
他の人魚に聞きたかったけれど
皆、適度な距離を保ったまま
自分のことをしていて
見知らぬ人魚のことなど
誰も気に留めてなかった
泳いで行った方が
取引先には近いことに気づき
海に一番近い駅で
降りることにした