最終列車
夜更けに植物たちの呼気が肺胞を満たし
ぼくはしずしずと座席におぼれていく
鶏頭の形をした虫みたいな小さな生き物が
呟きのように車内灯に集まり始めている
窓の外では乗り遅れた人が持て余した手で
自分の柔らかい体を触りながら
出発を心待ちにしている様子が見て取れる
かつて駅弁を買うために
真っ暗なホームに一人降り立った父は
二度と帰ることはなかった
後日、配達人になり成功をおさめたと
母の独り言でぼくは知ったのだった
湿った掌で手書きの切符がふやけたまま
最終列車はホームを滑り出す
植物たちは受粉を終え
恍惚の中、一斉に産卵を始める