海の話
町外れにある小さな海岸には
波が来るたびに
無数の椅子が打ち上げられる
町に住む子供たちにとって波音とは
木や金属のぶつかったり
こすれたりする音に他ならないので
海遊びをするときは
上手に口真似をして遊ぶ
大人たちは時々椅子を拾いにきて
みな面白いくらいに
自分にふさわしいものを選んでいく
この海の向こうではきっと
椅子に座れなくて困っている人や
椅子に座れなくてほっとしている人たちが
同じ数だけいるのだろう
僕らは椅子に座るために
産まれてきたわけじゃない
けれど産まれてくるためには
たくさんの椅子が必要だった