ランチ
店員さんが運んできたコップの中に
凪いだ海があった
覗き込めば魚が泳いでいるのも見える
こんなにたくさんの海は飲めそうにない
先ほどの店員さんを呼ぼうとしたけれど
彼女なら里に帰りました、と
他の店員さんが寂しげに教えてくれる
こんな日に限って
しょっぱい料理ばかり出てきて
ますます喉が渇く
おそらく海を飲み干さないと
ここからは帰れない
ランチの時間はとうに過ぎて
コップの海に夕日が沈み始める
帰る場所はもう
海しかないことを思い出すと
やっと安心できて
波のように身体を揺らしてみる