サイレン
覚えてる
迷ったときの指先のちょっとした仕草とか
暑い室内でむっと漂ってきた身体の匂いとか
正午、君がサイレンの口真似をすると
僕らは作業を中断して
いつも小さな昼食をとった
今日は無線の受信機を持って
役場の職員がやってきた
一通り機械の説明をして
それから今年は甘いなあ、と
冷えたスイカを一切れ食べて帰っていった
これからは正午になると
綺麗な音楽が流れるそうだ
君の記憶のほんの僅かを
僕は自分自身の記憶として引き継ぎ
後はもう空っぽだよ、って
写真の君はそんなところだろうか
試しにサイレンの口真似をしてみると
他にすることがなくなってしまう