ポエム
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空の切れ端


みかんをむいて父に食べさせると
ぼくはみかんではないのに
お礼を言われた

咳をするしぐさが
父とぼくは良く似ていた
植物に無関心なところも
石鹸で洗う指先の先端の形も
他に似ているところは特にないけれど
おかげでたくさんの人とすれ違っても
父の姿を探すことは容易だった

悔しくて泣いていた子供のぼくを
肩車したのは父だった
確かにあの日ぼくは
空の切れ端を掴んだのだ
記憶が劣化していく中で
今日は昨日より上手く思い出が語れない
かといって何も言わずに父を抱きしめるほど
距離が縮まったわけでもない

大好物のウニの瓶詰めが
食卓に並んだときのように
父がふと笑った
ぼくはウニではないのに
いっしょになって笑った
 
23/11/17 08:20更新 / たけだたもつ



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