さよなら中継
テレビで野球中継を見ていると
ボールを渡される
九回裏ツーアウト・
スリーボール・ツーストライク
最後の一球を投げるのがぼくの役目らしい
キャッチャーの構えたところに
渾身の直球を投げる
バッターが空振りをする
チームメイトがマウンドに
走って集まってくる
優勝したのだ
監督が僕の肩に手を置き
もうこんな所に戻ってくるんじゃないぞ
と言う
ぼくは頷いて薄暗いホームから列車に乗る
バッグの中には水着と浮き輪が入っている
海に行こうと思っていたのに
車内でクラゲに刺されて列車を降りる
これで何度目かの途中下車になる
病院の待合室に座っている間に
夜がすっかり更ける
名前を呼ばれて受付にいくと
きみがあの頃と同じ姿で待っている
会いたかったよ、ずっとだ、と
喉まで出かかった言葉を飲み込む
渡された問診票に
言いたくても言えなかった「さよなら」を
一文字一文字丁寧に書く