午後、静物
わたしの跳び箱が
静置されている
とん、と
一番高いところから
何も無い水平線が見える
息を紡ぐ
手や足が湾曲した先の行方
命のようだと思い
言葉はまだ拙くても
わたしは生きている
と決めた
海の水槽
海にしかいない魚や
魚屋に並ぶような魚で
広く届かないけれど
満たされていく
この扉はただの絵だよ
と笑った人が
扉を開けて中に入る
干からびた餌を与えていると
跳び箱はまた一段積み上げられ
わたしは一段分遠くの
水平線を見ることができる
陽だまりにこうべを垂れ
人が黙祷しているように
午後がまだあればよかった
タイヤのある普通の乗り物が
新しい跳び箱を積んで
生き別れた身体みたいに
発車時間を待っている
水色の肉体労働を終え
長い食事休憩のあと
自分の心音の絵をなるべく
隅々まで丁寧に描く
タイトルは「静物」となった
※ wc.さんとの即興詩企画に投稿したもの
出題者 たけだたもつ
お題 午後、静物