童話(波音)
習ったばかりの算数の記号を
少年はノートに書きました
丁寧に書いていたはずなのに
最後に記号は壊れてしまいました
わずかな隙間から覗き込むと
幼い頃に過ごした町の海が見えました
汚れた海でした
昔と同じように
木の破片や
虹色をした油や
茶色く固まった泡が浮いた
汚い、そして懐かしい海でした
波音が聞きたくなって
ノートに耳を近づけてみました
ひんやりとした感触に
少年はそのまま眠ってしまいました
しばらくして目を覚まし
夢かな、とも思ったのですが
耳の辺りが少し濡れていて
潮の匂いが微かにしました
たしかに海の近くまで行ったのでした