試着室
試着をし続けている間に
ぼくらはすっかり
年を取ってしまった
兄は定年退職を迎え
父と腹違いの叔父は
ベッドから起き上がれなくなった
会津に帰ると言って聞かないのよ
叔母が愚痴をこぼしていく
店舗は閉店して空地だけが残った
それでも毎日やってくる明日の
服装が決まらないから
ぼくらは試着をし続けるしかなかった
これどう
可愛いよ
そればっかり
きみの好みは熟知しているから
的は外さない
やがてぼくらの身体は無くなり
そんな他愛もない定型のやり取りだけが
いつまでも繰り返される
試着室のカーテンが風に揺れて
世界はそこで終わっている