はさみ
はさみ
兵藤ゆきより
大きなはさみを
買う
ポケットには入らないので
背負って
帰る
兵藤ゆきですら
背負ったことないのに
道が市街地に向かって
少し車で混んでる
子供の頃
兵藤ゆきを背負いたい
と言うと両親は
あの人はきっと有名な人だから
そう言って
柔らかい体のまま
テーブルを拭いたり
何か持ったりしていた
代わりに両親を
背負ってあげれば良かった
でも腐った匂いがして
淋しい感じしかしなかった
はさみ
のひんやりとした感覚が
背中に温められて
体温と同じ温度で
兵藤ゆきも同じくらいだろうか
少し懐かしい
腐ったような匂いに
足をとられそうになる
もしかしたらその匂いは
両親のものでも
はさみのものでもなく
自分のものかもしれない
そう思うと
生きた心地がしていない
おそらくあの日から
ずっとだ