父洗い
海水浴場で父を洗っていると
監視員さんがやってきて
ここは海水浴をするところです、と言う
洗っている、といっても
石鹸もシャンプーも使ってないし
水を身体に濡らすところなどは
波際で遊んでいるあの家族たちと
何も変わらない
父を仰向けにして海に浮かべてみる
まだ海水浴という感じではないので
父に手足を動かしてもらう
何となくそれっぽくなったけれど
判定すべき監視員さんは
もう関心もないようで
陸地で業務日誌を書いている
このまま沖に行っちゃおうか
青空を見上げる父の顔が
何となく笑って見える
うまく潮にのれば
父さんの故郷まで行けるかもね
そう言うと父は更に力を込めて手足を動かす
その程度ではまったく進むはずもないのに
心はもう同じ潮風が吹く
あの小さな港町に泳ぎ始めている