二月。ぼくは果ての景色を見ていた。
東から伸びる影を負い、西から刺す斜陽を食む。肌にひりつく魔女の吐息と外套のシミが疎ましい。ぼくはこの世のあらゆる繋がりを肯定していた。言葉、意味、記憶、そのあらゆるものに繋がってぼくは動くけなくなっていた。ぼくは白痴で、意味を求めることを否定してしまった。
ぼくは果ての景色を見ていた。
ある日、ぼくはアルツハイマー病を患った老婆の映像を見た。老婆はかつてバレリーナをやっていて、その枯れ枝のような上肢から繰り出す洗練された所作は彩光を放っていた。それはきっと意味を逃れたものの見る景色で、軛を食った牛車のようにも見えた。ぼくはそれを果ての景色と名付けた。